通常の人間は感情をあからさまに出したりしないですが、役者は舞台で感情を使って観客が何が起こっているかを分かりやすく伝えるためにシンプルに演じなければならないです。
人間の感情は非常に複雑で、興奮、性的興奮、緊張、尊敬、勇気など、その範囲は広大です。しかし、感情理論においては、この多様な感情を基本的なカテゴリーに分類する試みが行われています。これらの基本的なカテゴリー、すなわち一次感情は、喜び、悲しみ、怒り、不安、驚き、恐怖とされています。これら一次感情は、人類共通の感情体験として認識されており、文化や言語を超えて理解される感情の基盤を形成します。
役者にとって、これら一次感情の理解と表現は演技の基礎をなします。演技は、観客に感情を伝え、物語を共有するための手段であり、役者は一次感情を用いてキャラクターの内面を表現し、観客に共感を促します。一次感情は、その直接性と普遍性により、観客が容易に理解し、感情移入できる表現を可能にします。
喜び
怒りという感情は、しばしば演技において表現が比較的容易なものとされています。これは、人間の感情のパレットの中でも特に強烈であり、外に向けやすい感情であるためです。
しかし、喜びという感情の表現は、それほど単純なものではありません。多くの人が思うように、単に笑うことで喜びが表現できるというわけではないのです。笑顔を作ること自体は物理的には容易かもしれませんが、本物の喜びを背景に持たない笑いは、見る人にとって不自然であったり、感情の深さを感じさせないものとなりがちです。
特に、演技の初心者にとって、喜びの感情を自然に表現することは大きな挑戦です。
「笑ってください」という演技上の要求に直面したとき、多くの初心者は緊張したり、不自然な笑いを浮かべたりすることが一般的です。
これは、単純に笑う行為に集中するのではなく、その背後にある感情や状況を理解し、内面から湧き上がる喜びを自然に表現することの難しさを示しています。演技における感情の表現には、感情を生み出す背景や状況に対する深い理解が必要です。
喜びの感情を表現する際には、単に笑顔を作るのではなく、その喜びがどのような状況から生じているのか、どのような過程を経てその感情に至ったのかを考慮に入れることが重要です。これには、キャラクターが何に対して喜んでいるのか、その喜びがどのような意味を持つのかを理解し、それを観客に伝えることが求められます。
演技の中で感情を表現する技術は、単に外見的な行為を模倣することではなく、感情の根源に迫り、それを内面から体現することにあります。そのためには、演技者自身がその感情を真に理解し、体験することが不可欠です。特に喜びという感情は、多様な形で現れるため、その表現もまた、単一の方法に限定されることはありません。したがって、演技においては、感情の真実性と深みを追求することが、表現の幅を広げ、観客に感動を与える鍵となるのです。
悲しみ
役者は涙を流したら、泣けたら、悲しみの感情を表現出来ると知っていることですが、これは半分あってて半分間違っています。涙だけ流したとしてもそれは本物ではない。涙には多彩な種類がある。悲しみの涙。安堵した涙。喜びの涙。涙だけ流すということはこれらの感情を表現せずにただ垂れ流しているということです。悲しみにあふれ泣くのか、自分を哀れ泣くのか大きな違いです。
怒り
怒りという感情は、その表現方法が比較的直接的であるため、演技の初心者であっても比較的容易に演じることができる感情の一つです。怒りを表現する典型的な方法には、大声を出す、物を散らかす、人に当たる、暴力的な行動をとるなどがあります。これらの行動は、感情の強さと緊急性を観客に伝える効果的な手段です。
特に、舞台上での演技においては、声の大きさが怒りの感情を表現するのに非常に役立ちます。マイクロフォンや他の音響設備の関係で、カメラを使った演技では声量を調整することが難しい場合もありますが、生の舞台演技では、声の大きさや調子を変えることで感情の強度を観客に伝えることができます。例えば、トイレが空いていないというシチュエーションで怒りを表現する場合、大声でドアを叩く行動は、その怒りの感情を効果的に観客に伝達することができます。
しかしながら、役者としての成長と発展を目指す上で、怒りの感情を表現する手法に頼りすぎることは避けるべきです。怒りという感情は多面的で、大声を出すことや暴力的な行動だけがその全てではありません。感情の根底にある原因や、その人物が抱える心理的な葛藤、怒りが生じる状況の複雑さなど、より深い側面を探求することが重要です。
役者は、怒りを表現する際に、その感情の背後にある物語や心理状態に注意を払うことで、よりリアルで説得力のある演技をすることができます。これにより、単なる怒りの表面的な表現を超え、キャラクターの深い内面や、その感情が生まれた背景を観客に伝えることが可能となります。役者としてのスキルを高める過程で、怒りを含むあらゆる感情を多角的に表現する能力を養うことは、役者の演技の幅を広げ、より豊かな表現を可能にします。
不安
人間は、日常生活の中でさまざまな源から不安を感じることがあります。これらの不安の源は多岐にわたり、人間関係や社会的状況、高所恐怖症、蜘蛛への恐怖、または家から外出することへの不安など、個人の経験や性格によって異なります。不安に直面したとき、人々は回避行動を取ることが多く、時には身体的な症状が現れることもあります。これらの反応は、不安を感じる状況から身を守るための、本能的な行動と解釈されます。
不安とは、本質的に、自分のコントロールが及ばないものをコントロールしようとする心の試みから生じる感情です。この試みは、しばしばネガティブな感情の洪水を引き起こし、人々を圧倒することがあります。これは、未知のものや予測不可能な出来事に対する自然な反応であり、安全を確保しようとする人間の基本的な欲求から生じます。
不安が生じる背景には、個人の経験や思考パターン、感情の処理方法など、複数の要因が関わっています。
不安という感情を表現するには、その原因を理解することが重要です。不安を感じる状況やその感情が生じるトリガーを特定することが大事になります。
驚き
驚きという感情は、人生の中で何度も経験する普遍的なものですが、その表れ方は非常に多様です。例えば、自分と瓜二つの人物に街中で遭遇した場合、その単純な偶然に対する驚きを感じることでしょう。しかし、その人物が突然あなたに1億円を渡してきた場合、その驚きはただの驚愕から混乱や疑問へと変化します。このように、驚きは単独で存在することもあれば、他の感情と複合して現れることもあります。
例えば、恋人が妊娠したという知らせは、多くの人にとって『驚き』と『喜び』の複合体として体験されるでしょう。これは、予期していなかった出来事への反応としての驚きと、新しい生命の到来を喜ぶ心情が同時に湧き上がる瞬間です。このように複雑な感情の組み合わせは、人生の重要な瞬間において豊かな色彩を添えます。
演技において、このような複合的な感情を表現することは、特に初心者にとっては大きな挑戦となることがあります。多くの初心者演者は、感情を単体で表現しようとする傾向があり、その結果、演じているキャラクターの真実性や感情の深みを伝えきれないことがあります。驚きという感情を演じる際には、その感情が生じた背景や、キャラクターがどのような心理的状態にあるのかを理解することが重要です。
『驚き』+「混乱」 『驚き』+「喜び」 『驚き』+「尊敬」
恐怖
恐怖を感じるという体験は、多くの人にとって親しみ深いものでありながら、それを正確に表珀することは難しい挑戦です。特に、日常生活が安全で平和な環境にある人々にとっては、深刻な恐怖を直接経験する機会は少ないかもしれません。このような状況では、恐怖という感情を理解し、それを表現することは、一層複雑なプロセスとなり得ます。
恐怖を演技で表現する一つの方法は、過去の体験からその感情を引き出すことです。しかし、これは容易な技術ではなく、実際にその感情を再体験し、それを表現できる人は少ないです。恐怖という感情は、特に個人の過去の経験や現在の心理状態に深く根差しており、その感情をうまく表現するためには、自身の内面と深く向き合う必要があります。
恐怖は大きく分けて2種類に分類されます。持続的恐怖と瞬間的恐怖です。持続的恐怖は、身の回りの環境や未来に対する不安から生じるもので、様々なものへの恐れや心配が長期間にわたって持続します。一方で、瞬間的恐怖は、予期せぬ出来事や事態に対する反応として急激に生じる感情です。これらは、想定外の物事が起こった際に体験する驚きと恐怖の混合感情によって特徴づけられます。
ほかの感情はどうやって表現するのか
二次感情は、基本的な一次感情の複数が組み合わさって形成される複雑な感情です。例えば、緊張感、嫉妬、罪悪感などは、喜び、悲しみ、怒り、不安、驚き、恐怖といった一次感情が組み合わさって生じる感情です。二次感情は、一次感情よりもずっと複雑で、人間の感情の豊かさと深さを示しています。
演技において、これらの複雑な二次感情を表現する際には、一次感情の度合いを微調整することが求められます。例えば、怒りの感情を100%ではなく30%の強度で表現することで、その怒りが完全な形ではなく、何か他の感情と混ざり合っているような印象を与えることができます。これにより、キャラクターが怒り以外にも何かを感じていることを観客に示すことが可能になります。
ただし、演技においては、特に舞台上では、感情の表現を過度に複雑にすると、観客にとってその感情が理解しにくくなることがあります。演技は日常生活よりも大げさであることが一般的で、これは感情の表現が直接的でわかりやすい形でなければ、観客がその感情を捉えることが難しくなるためです。したがって、微細な感情のニュアンスを表現する際には、それが観客にどのように伝わるかを常に意識することが重要です。
例えば、キャラクターが複雑な二次感情を抱えている場面では、その背景やキャラクターの状況を通じて、感情の複雑さを伝えることが効果的です。言葉遣い、身体言語、表情などを使って、一次感情の強度を調整し、観客にその感情の多層性を伝えることができます。しかし、感情の表現をシンプルに保つことで、その感情が観客に明確に伝わりやすくなることを忘れてはいけません。